からだと自然
息吹/アイアンバイブルとエネルゴロジー、その意味と、これからの世界観〈1〉
Glass Story
RADWIMPSのアルバム「×と○と罪と」に、「アイアンバイブル」という曲がある。
タイトルは、「iron Bible(鉄の聖書)」と「I am Bible(わたしは、この曲は、聖書です)」を掛けたものだろう。
ただ、この場合のバイブルは、聖書というよりも、自分にとってのかけがえのない書物という意味なのだと思う。
聖書や宗教による救いではなく、次の時代の思想を歌い上げようとしている。
この歌では、「贈与」に関する思想がテーマとなっている。
僕たちは、よく「自立」という言葉を使う。「自立」「自己決定」「自己責任」といった言葉がはびこっている。
しかし、これは確固たる「我」の存在を主張する西洋の価値観に基づいている。
日本語のように、主語が場所で変わったり(「私は」「お母さんはね」「先生はなあ」など)、俳句のように無くなることはない。
だから、西洋世界では、アメリカで顕著なように、この「我」と「我」のぶつかり合い、完全な自由と競争の世界、「勝ったら自分の手柄」「負けたら自己責任」の価値観が深く根付いている。
グローバル化とは、こういう世界観をまんべんなく世界中に当てはめようという試みなのだ(世界の「アメリカ化」と言われる所以である)。
でも、これは「真理」だろうか。
僕は、はっきりと違和感を抱く。
事実、アメリカでは格差の拡大がひどいことになっている(「アメリカ化」を押し進める日本も、そうなりつつあるだろう)。
たった1%の勝者は、富を独占する。
食事もオーガニックな食材、我が子の教育は充実(ハーバードの近くにある名門幼稚園を受験させる)、自然の豊かな環境で育ち、人脈も富裕層のみで閉鎖的に繋がっていく。
勝者は、いつまでも勝者なのだ。
逆に敗者は、知らされぬまま、添加物やホルモン剤、遺伝子組み換え作物のふんだんに使われた薬漬けの肉やジャンクフードを食べる。
SNSで罵り合い、狭く、不衛生な環境で、教育も満足に受けられない(そもそも受けようとする意志や体力すら育まれないかもしれない)。
格差が世代を越えて固定化される。
これが果たして「自由」であり「自己責任」と言えるだろうか。
また「俺の稼いだ金を、俺がどう使おうと、俺の勝手だ」という言い分がある。でも、それも違うと僕は思う。
なぜなら、僕たちは、僕たちの力だけで今この場所に立っているわけではない。
家族の支えや、ふとしたときの笑顔、同僚や友人の協力はもちろん、もっと根源的には、呼吸をすれば酸素が体内を循環し、食べものは血肉となり、さわやかな風が心の痛みをやわらげ、今ここに踏みしめる大地がある。
一世一代の告白も、
一生分使った青春も夜の星に
通り雨に助けてもらったの
僕は知ってるよ
言葉と繊細に向き合おうとすれば実感できるだろう。
言葉には歴史があり、多くの想いが詰まっている。
豊穣な言葉の海から、僕たちは一時のあいだ、様々な言葉を借りたり贈与されることで思考することができる。世界を認識し、創造し、繋がることができる。
「誰もが他人に頼ることなく、何事も独力でやりとげるべきだ、という考え方がアメリカにはあって」とスエロ。「(……)だけど本当は、この宇宙には誰ひとりとして、一個の分子ですら、自足的な存在などない」
『スエロは洞窟で暮らすことにした』より
世界は、すでに与えられている。それは、たった一人の造物主というよりも、八百万の神。あらゆるものから、贈与を受けている。
どれだけ「僕には何もない!」と叫んでも、その叫ぶべき「言葉」も、立っている「大地」も、あなたという存在に優しく息を吹きかける。
この「アイアンバイブル」では、「奪われたもの」ではなく「与えられているもの」に目を向け、そして、それを独占して貯め込むのではなく、「ばらまく」、贈与の連鎖を止めない、と彼は歌う。
僕を 僕たらしめるもの
人や、その他もろもろ全てに借りを返そうとしたところで
一生すぐ終えるでしょうならば、おれは ばらまくんだ
もらった種を 咲かすんだ
「たとえ世界が明日滅ぶとしても、ぼくは今日りんごの樹を植えよう」
これは、ある小説のなかで、中世の腐敗した教会と闘った宗教改革者ルターが言ったとされる言葉である。
そして、野田洋次郎さんは歌う。
なら、僕は言おう
明後日からの新しい世界に間に合うように
この世のすべてを書き遺すよ
これが詩人である彼にとっての世界に向けた恩返し、贈与なのだろう。
さて、あなたのポケットには、引き出しには、タンスの奥には、寒空の帰り道には、いったいなにが贈られているだろう。
ふと立ち止まって、深呼吸をして、そっと耳を傾けたなら、どんなときも、世界は贈与で満ちている。
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